光と物質の相互作用について(4月2日更新)

「光と物質の相互作用」というキーワードだけ聞いても,あまり具体的なイメージをすることは難しいと思います.まずはアンテナを想像してみてください.アンテナは,電波に情報を乗せて送信したり,それを受信したりしますね.信号は電波を時間的に変調することによって表現することができます.光も電波と同様電磁波の一種です.では,光にとってのアンテナは何かというと,物質系そのものになります.原子核に束縛されている電子が光の力を受けて振動します.共鳴して吸収すれば,原子核の束縛から少しのがれ,よりエネルギーの高い状態になります.このとき電子が移動しやすくなるので,電気信号になります.これが,カメラを構成する撮像素子で行われていることです.今の撮像素子は,100万個を大きく超えるような数の画素を持っています.それだけ多くのアンテナが並べられていることになります.なので,時間だけでなく,空間的な変調も信号としてとらえることができます.この特徴より,光は非常に多くの情報を取り扱うことができます.

上記では,身近な例として,撮像素子をあげましたが,物質系ができることはそれだけではありません.受け取った光を少し変調して送信するアンテナにもなります.これによって,光が伝播する向きを変えたり,電磁場の振動する方向を変えたりできます.一般的にカメラで画像を撮影するという行為は,自然光が対象物に照射され,なんらかの相互作用を受けた結果の光を受信することを意味します.その,なんらかの相互作用の物理を知っていれば,受信した光を解析することによって,画像としての情報以上の情報を得ることができます.その一つの例が,研究室紹介のページで,最近の研究テーマとしてリストしている振動計測です.これは,振動によって変調された光を解析するので,例えば振動源が音源だったら,音を取得することができます.単にマイクで音を拾うのとは異なり,音源における振動分布がわかるので,そこから空間にどのように音が伝播していくか計算できます.場所によって聞こえ方が変わるような臨場感を取得できます.

さらに,物質系の電荷は,光の電磁場から力を受けます.非常に弱い力なので,通常はほとんど影響を受けません.しかし,特別な物質系では,吸収した光エネルギーを使って分子の形を変形させるとともに,分子が動きやすい状態に変えます.このようなとき,光の力を受けて物質形状を変化させることが可能です.茨田研究室では,これを微細加工技術として応用しようとしております.一般的に光で物を加工するとき,非常に密度を高めた強力な光を使います.茨田研究室で行う加工は一般的な光加工とまったく原理が異なります.力まかせに加工するのではなく,効率良く光のエネルギーを力学的エネルギーに変換させます.これは,一般的な光加工が悪いという意味ではありません.用途はまったく別のものになると思われます.

以上のように,茨田研究室では,物質の中で何が起こっているのかを一歩深く考えることを特徴としております.実験的には似たようなことをやっている研究はたくさんありますが,違いを簡単に言うとすれば,そういうことになります.カメラを使うにしても,例えば,生の画像からは,ほとんどわからない隠れた情報を抽出する方法を研究します.光と物質の相互作用は,ある意味暗号鍵になっております.その暗号鍵を知っていれば,画像から欲しい情報が取り出せるというわけです.新しい手法が何に使えるかは,みなさんのアイデア次第となります.

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