佐久間研究室

ガスフロースパッタ(GFS)法の原理と特徴



GFS法はスパッタ成膜法の一方式で,石井清名誉教授が開発したものです.現在研究室ではGFSの研究は終了しましたが,詳しく知りたい,使ってみたいという方がいらっしゃいましたら,ぜひご連絡ください.



GFSの原理を図1に示します.GFSでは,対向させた平板あるいはパイプ状の中空ターゲットを用いてホローカソード放電を生じさせます.ホローカソード放電とは図2に示すように,カソード表面から放出されたγ電子がカソード間で往復運動をすることにより電離効率を飛躍的に高められる放電のことです.このホロカソード放電を利用することにより,スパッタされた粒子の密度は非常に高くなります.



スパッタ粒子はターゲットの後方から導入される,数百sccmのスパッタガス(Ar)の強制流により基板に移送され,薄膜が堆積します.ガス圧力は50〜1000 Pa程度の高い値に設定します.このような圧力下では,平均自由行程は1 mm以下となりますので,スパッタ粒子や負イオンなどの高エネルギー粒子はArとの衝突によりその運動エネルギーを失います(熱化).このことにより,膜へのダメージが少ないソフトな成膜が可能です.このような成膜過程は化学気相成長法(CVD)に近く,条件によっては結晶性に優れた膜が得られます.また,物理的な方法により膜の原料となる原子を作り出しますので,有害な有機金属化合物を用いる必要もありません.

GFSのもう一つの特徴は,酸化物や窒化物であっても,金属ターゲットを用いて安定なDC放電が可能である点です.酸素や窒素などの反応ガスをターゲットの出口付近で加えてやると,スパッタ粒子は酸化・窒化して基板上に酸化物や窒化物が堆積します.しかし,一般的なスパッタ法においては,ターゲットも酸化・窒化してしまうため,異常放電が起こりやすくなります.GFSにおいては,高い圧力で大流量のガスをターゲット後方から流すため,ターゲットには酸素や窒素は触れませんので,酸化・窒化は起こりません.いわゆる“金属モード”のスパッタが可能となるのです.

GFSの特徴をまとめると,以下のようになります.
1. ホロカソード放電による高速堆積
2. 高圧力によるソフトな堆積
3. 金属モードの安定かつ高速な反応スパッタリング